11/19/2006

God bless you, Mr. Kurt Vonnegut Jr.!

先日友人とのチャットの中で、互いにこの世の中、面白い人間が段々少なくなったなと嘆いた。

詩と文学の話題の中での嘆きなので、面白い人を「面白い作家」に限定しなければならない。

ヘルマン・ヘッセイタロ・カルヴィーノホルヘ・ルイス・ボルヘス、その他の輝かしい名前の数々、流星の如き、悲惨な20世紀の夜空を照らしながら消え去った。

しかし、私には親愛なるカート・ボネガット・ジュニアがいる。

84歳になった今も、11歳から吸い始めたタバコをやめる気はない。そんな彼に、神様はやはり寛大である。83歳になる去年、彼は『国家なき人』(A Man Without a Country)を発表し、97年から止まっていた著作活動を再開した。

思えば、10代最後の頃、世の不条理に憤慨し、人類の愚行を不可解と考え、沢山の矛盾が脳裏を去来する中で、私は幸運にも「スローターハウス5」と出あったのだ。

それまでに読んだ現実批判的な作品とは違い、このオジサンはかなり飛んでいた。彼の人間社会に対する視角は、まさしく俯瞰という表現に相応しい。人間には何も神聖的なものがないのである。人間こそが、常に愚かな挙動を取り、自ら破滅に向かう事さえ有りあえる、不思議な種である。

カート・ボネガット・ジュニアは言う、地獄はなんだって?俺には知っている。なぜって?俺はそこから帰ってきたんだよ。

それは本当のことだった。

彼は1945年2月13日の夜、ドイツの由緒ある文化的な街ドレスデンにいた。連合国の兵士として囚われていた彼は、臨時看守所に使われた、とある屠殺場の地下倉庫に閉じられていた。そして、彼らの頭上の街には、イギリス空軍が投下した焼夷弾が降り注ぎ、街は一夜にして焦土と化した。

135,000もの人の命が、一夜にして失われた。

2005年、彼はこの爆撃を『国家なき人』の中で再び言及した、「あれは軍事的な実験だ。空から焼夷弾をたくさん投下したら、街を消せるかどうかを奴らは試そうとしたのだ。」と。

そんな地獄から来た彼にこそ、説得力を以って、彷徨う私の心を沈静させ、そしてこの世を直面する勇気を与えてくれた。

愚かな人類の中いるからこそ、我々は希望を持って、自分のできるだけの事をし、楽しく生きなければならないのさ。

そんな人生の師とも言えるボネガットに敬意を表したい。

God bless you Mr. Kurt Vonnegut Jr.!

さて、米国では中間選挙でブッシュが大敗を喫している。

2年前に、吾がボネガット師はこれを予言していた。

In These Times誌2004/10/29付けコラムに載っていたこの文書は、彼の世界観を良く表している。「暗いニュースリンク」から引用させて頂く。



『終末は近づいている(The End is Near)』

わたしはこの文章を選挙前に書いているので、ジョージ・W・ブッシュとジョン・F・ケリーのどちらが、私達の新大統領になって...万事うまくいけば...次の4年間を務めることになるのか、知ることが出来ない。北欧系で貴族的な大金持ちであるこれら二人は、言ってみれば双子のようなものであり、大方の人々と違って、少々おかしな白子の双子と呼ばれるのがふさわしい。しかし私にとってはこちらの事実が時宜に適う:両候補共に、現在でもイエール大学の排他的な秘密結社“スカル・アンド・ボーンズ”のメンバーであるという。つまりこういうことだ...どちらが勝利しようが、私達はスカル・アンド・ボーンズ(骸骨と骨)大統領を迎えることになる...地上や海、大気に毒を撒き散らしたおかげで、全ての脊椎動物が...さあお立会い、まさしく骸骨と骨だけに変わり果てようとしている時代にである。

なんと詩的な!

この終末への道のりは何から始まったのか?アダムとイブと禁断のリンゴのことを言う人もいるだろう。私ならむしろ、ギリシャ神話に登場する神々の子で、親たちから火を奪い人類に与えた、タイタン族のプロメテウスを挙げておきたい。神々は怒り狂い、裸のプロメテウスを岩に縛りつけ、背を晒して、集まったハゲワシに内蔵を食べさせた。

今日では、神々のそうした行いが正しかったのは明白である。我々の親類であるゴリラやオラウータン、チンパンジーやテナガザルは、生の野菜を食べながらいつでも元気に暮らしているが、一方で我々は、食べ物を温めるだけでは飽き足らずに、かつては生命維持装置として健全であったこの星を、もっぱら化石燃料をめぐる熱力学的どんちゃん騒ぎのおかげで、わずか200年足らずの間にほとんど破壊し尽くそうとしている。

英国人のマイケル・ファラデーが、力学的エネルギーを電気に変える能力を備えた人類最初の発電機を発明したのは、わずか173年前のことだ。合衆国で最初の、今では空井戸になってしまった油田は、ペンシルバニア州タイタスビルで、エドウィン・L・ドレイクによって発見されたが、それも145年前の話。ドイツ人のカール・ベンツは、人類初の内燃機関駆動の乗り物を開発したが、それもわずか119年前の出来事なのだ。

アメリカ人のライト兄弟は、周知のとおり、人類初の飛行機を発明して飛んだ。101年前のことである。飛行機にはガソリンが必要だった。そろそろあの魅惑的などんちゃん騒ぎの話をしたくなったでしょう?

残念でした。

化石燃料は、あまりにも簡単に燃えてしまう!そう、そしてブッシュとケリーが遊説しているときも、我々は残り少ない燃料のひと吹き、一滴、一塊に次々と点火しているわけだ。全ての灯りは消えようとしている。電気もやがてなくなる。あらゆる形態の移動手段は停止し、地球はやがて骸骨と骨、動かなくなった機械で覆われることになる。

もはや誰も抗うことはできない。ゲームに加わるには遅すぎる。宴を台無しにしてはいけないが、真実に目を向けよう:我々は、空気や水も含めて、まるで明日などないかのように地球の資源を無駄遣いしてきたので、今では本当に明日というものを失いつつある。

さて、ダンスパーティーはもうお終い。でも、お楽しみはこれからなのだ。

注:右にあるのは彼の自画像兼サインである。

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