11/27/2006

『大国堀起』について

『大国堀起』なるドキュメントリー番組が中国中央テレビで放映され、論議を呼んでいる。その内容は欧米列強及び日本の15世紀以後の発展の軌跡を辿り、背景と原因を探るというものだ。

11月13日から24日にわたって放映されたこの番組は、昨今の中国の現実を照らし合わせて見ると、やはり異様である。 

特に注目すべきことは、中国政府を代表するメディアがこの番組に対する評価。

『人民日報』のネット版である人民網は、18日に早速紹介文を掲載、この番組の重要性を強調している。

「今日の中国は、中華民族の偉大なる復興の道を歩んでいる。広大な土地、膨大な人口と悠久な歴史を持つ中国の富強は人類発展史上の重大事件を作り出すであろう。と同時にこの過程は深く中国社会を改め、世界の局面に影響を及ぼす。近代以来の160年の追いかけの末、世界は中国の声を再び聞こえるようになり、新中国成立してから、特に改革開放してからのこの30年間の変貌を経て、我々に自信と余裕を持ってこの世界に立ち、自国の強国の道を模索できるようになった。」

さらに、この紹介文は番組の制作背景にも触れている。

「2003年11月、中共中央政治局は第九回目の勉強会を行ったが、この勉強会は広く注目された。勉強会の内容は:世界の9ヶ国の15世紀以来の興起の歴史であった。それからも、こうした歴史の勉強は各階級の政党部門で行われた。」

因みに、その9ヶ国とはポルトガル、スペイン、オランダ、イギリス、フランス、ドイツ、日本、ロシア、米国である。

最後に、この紹介文は、「歴史が我々の未来の道を照らせよう」と結んでいる。

なるほど、この番組は中国国民に、大国の国民になる心構えを植え付けようとしているのではなかろうか。

しかしながら、資本主義の発展の歴史は、市民が王制から権利を獲得して行く過程でもあり、民意の支持がなければ、大国なんぞありえないのだ。

案の定というべきが、その日本に関する第七回を見た。明治天皇への権力の集中が強調された外、渋沢栄一の重商主義や、福沢諭吉の脱亜入欧論が取り上げている。

一方、明治国家建設に伴う国民の苦しみや犠牲、その反抗の結果とも言うべき地券の発行、松平正義らの民意重視と公平精神などは一切触れていないのである。

腐敗や不正が横行、各地での土地の取り上げが抗争を引き起こしている一方、言論の自由が厳しき制限されている中、「即今民心を得るをもって、要とするよりほかはけっしてこれなし」――こうした松平正義の言葉こそは、今の中国政府に一番必要なアドバイスではなかろか。

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